
ルピナスとはマメ科の植物でありその咲き方からノボリフジとも呼ばれる
多彩な色合いの花でかつて北海道で見た群生を思い出します。
本日紹介するルピナスは株式会社コーワが興服産業株式会社の商号で
光学機器を手掛けていた古い時代からある商標名です。 現在の製品は
LED卓上ライトにこの名を使用しているようですがかつては双眼鏡に使用
されていた名称です。 野鳥観察用望遠鏡で有名なプロミナーも同社の
商標ですが特定世代にはフィールドスコープやスポッティングスコープも
含めたこの分野の望遠鏡のデファクトスタンダード名として使用されました。
コーワは鳥見する人間にとってはスコープ・双眼鏡で有名ながら一般人に
とってはコルゲンコーワやキャベジンコーワなどの医薬品がむしろ有名です。
そんなコーワは社史によると1854年(明治27年)に綿布問屋「服部兼三郎
商店」として名古屋で創業。その後職布、紡績、染工場など繊維業で業容を
拡大、1940年(昭和15年)に商号を服部商店に改め、更に1943年(昭和18年)
に興服産業に商号変更し1960年(昭和35年)に興和株式会社となっています。
1946年(昭和21年)に興和光器製作所を開き光学事業に参入し翌年に医薬
品事業にも参入、現在は商事・製造の両面で多角経営する企業です。
【Lupinus 3x24 スポーツグラス(オペラグラス)】

対物レンズ径24mmのプリズムを使用しないガリレオ式3倍双眼鏡です。
戦前より市販のこのタイプの多くは目幅固定タイプが殆どでしたがこちらは
目幅調整できるタイプの双眼鏡です。
戦中から物資不足の影響で軍用双眼鏡にも多数採用されていた砂目塗り
外装です。コーワが光学事業に参入した時代は民生用光学機器製造業者も
軍用双眼鏡などに業態転向が課せられた戦時中の影響もあり事業開始に
ついてはGHQの許可が必要だったようですが光学事業は当時輸出産業の
花形へと転換していく途中でした。ただしこちらの双眼鏡にはMade in Occupied
Japanの表記もないことから国内向けの製品だったようです。

接眼レンズ側から見たルピナス
刻印の辺縁塗装が腐食で浮き上がっているため文字が読みづらい

塗装表面をメラニンスポンジで摩擦しライティング角度を変更
左側上面に筆記体でLupinius3X右側上面に横楕円の両側を
垂直に切り取ったような枠内にKKK興服産業株式会社の略でしょう。

収納されたケースは焦げ茶色に着色した革製ですが縫製は細かく丁寧で
戦前のスタイルを受け継ぐ製法で戦前には床革むき出しであった内側にも
臙脂色別珍が張られた上質なハンディーポーチタイプです。

ケースに使用された留め金具である挿し込み錠にはシカのマークの刻印が
施され円周上部に YAMAKAMI LOCK CO 下部に TOKYO JAPAN とあり
刻印の特許番号から昭和22年7月21日に山上勝次氏によって特許出願された
金具であるとわかります。そのためこの製品も昭和20年代前半製品と推定
できます。
【Lupinus 8x30 7.5°ポロプリズム双眼鏡】
最初にこの双眼鏡を入手した際は単に真面目に作成された戦後シングルコート
8x30機を欲しかったので入手しました。左鏡板上の表示 KOFUKU SANGYO CO
.,LTD.は記念品としてユーザーの依頼で刻印された企業名だと考えていました。
ところがコーワの社史を見てびっくり! かつての社名だったんだ。
外観からすぐにわかるバージョンの変化は KOFUKU SANGYO CO.,LTD部分が
KOWA COMPANY,LTDに表記が変わったもの、この部分の表示がないもの
少なくとも3パターンは知っているが同じ表記でも接眼レンズがエルフレのものと
ケルナーのものがある様子。




下陣笠にはMOPの陽刻があり武蔵光学製であることを示す。
ただし武蔵光学製でも基台製造は特定ではなくこれはJ-E10。

上陣笠(目幅目盛板)を取り外すと真鍮製円板で固定されている。
この円板には回転止めのロックネジがあるものとないものがあり
この製品ではロックネジありのマイナスネジタイプ。2点穴タイプも
あるがメーカーや製品によってこの合焦腕固定ネジは異なる。

右合焦腕取り外しまではツァイス・デルトリンテムタイプの双眼鏡で
共通だが、左合焦腕固定タイプ(ニコン製双眼鏡など)では下陣笠
よりアクセスして底部から昇降軸規制ネジを取り外し転輪・昇降軸と
合体した状態で取り外す必要がある。

多くのこのタイプの双眼鏡の左合焦腕基部裏側には突起があり、その
突起が昇降軸上部のディスク切り欠きに嵌合し回転止めとして機能
しています。その機構によって転輪の回転が合焦腕を上下動するように
運動変換します。戦後の製品の多くは鏡板固定に1本のビスと接眼外筒
ネジが使用されています。またポロプリズム式ルピナスでは初期の製品
からプラスネジが採用されており同時期の他社製品より製品へのプラス
ネジの導入が早かったのではないかと思います。そのような製品特徴と
刻印された社名からこの双眼鏡の製造年代は昭和30年代前半と推定
しています。接眼レンズ形式がエルフレからケルナーに変更されたのも
社名がコーワになってのちに変更されたと推定されこの製品ではエルフレ
を採用しておりこの双眼鏡の国内基準品である東光マグナに倣ったと
判断しています。

接眼スリーブ(接眼鏡外筒)を取り外すにはベルトレンチを使用します。
素手でも回転可能ならそれでもいいですが、プライヤーなどは変形を
招くため避けるべきです。ベルトレンチには使用方向がありますので
その方向に回転させないと機能が発揮できません。

鏡板を外したらマイナスビスで固定されたプリズム押さえ金具を取り外す
とプリズムが取り外せます。プリズム形状には色々なタイプがありますが
この双眼鏡では接眼筒側に切り欠き部分が大きいプリズムが使用されて
います。

転輪と昇降軸の接続部の肉厚が薄いせいか過大な力が加わったのか
軸基部で転輪と分離破損し転輪のみクルクル回りピント調整不可の状態
でしたので他製品から流用した同じ部品と交換しました。実は8X30機は
多数存在するので部品自体の流用はかなりの部分で可能です。

鏡版の刻印が時期によって異なる例
戦前、昭和初期のアース光學製8×28アース双眼鏡
下側が古く EARTH KOGAKU CO LTD 上側の新しいものは EARTH
KOHGAKU K.Kとなっているだけでなく接眼レンズが初期のカシメ固定から
枠にはめ込みカニ目リングで固定するアイレンズへと変更されている。
またこの双眼鏡の昇降軸回転止めにはオペラグラス同様の角型軸による
合焦腕固定が採用されている。
多彩な色合いの花でかつて北海道で見た群生を思い出します。
本日紹介するルピナスは株式会社コーワが興服産業株式会社の商号で
光学機器を手掛けていた古い時代からある商標名です。 現在の製品は
LED卓上ライトにこの名を使用しているようですがかつては双眼鏡に使用
されていた名称です。 野鳥観察用望遠鏡で有名なプロミナーも同社の
商標ですが特定世代にはフィールドスコープやスポッティングスコープも
含めたこの分野の望遠鏡のデファクトスタンダード名として使用されました。
コーワは鳥見する人間にとってはスコープ・双眼鏡で有名ながら一般人に
とってはコルゲンコーワやキャベジンコーワなどの医薬品がむしろ有名です。
そんなコーワは社史によると1854年(明治27年)に綿布問屋「服部兼三郎
商店」として名古屋で創業。その後職布、紡績、染工場など繊維業で業容を
拡大、1940年(昭和15年)に商号を服部商店に改め、更に1943年(昭和18年)
に興服産業に商号変更し1960年(昭和35年)に興和株式会社となっています。
1946年(昭和21年)に興和光器製作所を開き光学事業に参入し翌年に医薬
品事業にも参入、現在は商事・製造の両面で多角経営する企業です。
【Lupinus 3x24 スポーツグラス(オペラグラス)】

対物レンズ径24mmのプリズムを使用しないガリレオ式3倍双眼鏡です。
戦前より市販のこのタイプの多くは目幅固定タイプが殆どでしたがこちらは
目幅調整できるタイプの双眼鏡です。
戦中から物資不足の影響で軍用双眼鏡にも多数採用されていた砂目塗り
外装です。コーワが光学事業に参入した時代は民生用光学機器製造業者も
軍用双眼鏡などに業態転向が課せられた戦時中の影響もあり事業開始に
ついてはGHQの許可が必要だったようですが光学事業は当時輸出産業の
花形へと転換していく途中でした。ただしこちらの双眼鏡にはMade in Occupied
Japanの表記もないことから国内向けの製品だったようです。

接眼レンズ側から見たルピナス
刻印の辺縁塗装が腐食で浮き上がっているため文字が読みづらい

塗装表面をメラニンスポンジで摩擦しライティング角度を変更
左側上面に筆記体でLupinius3X右側上面に横楕円の両側を
垂直に切り取ったような枠内にKKK興服産業株式会社の略でしょう。

収納されたケースは焦げ茶色に着色した革製ですが縫製は細かく丁寧で
戦前のスタイルを受け継ぐ製法で戦前には床革むき出しであった内側にも
臙脂色別珍が張られた上質なハンディーポーチタイプです。

ケースに使用された留め金具である挿し込み錠にはシカのマークの刻印が
施され円周上部に YAMAKAMI LOCK CO 下部に TOKYO JAPAN とあり
刻印の特許番号から昭和22年7月21日に山上勝次氏によって特許出願された
金具であるとわかります。そのためこの製品も昭和20年代前半製品と推定
できます。
【Lupinus 8x30 7.5°ポロプリズム双眼鏡】
最初にこの双眼鏡を入手した際は単に真面目に作成された戦後シングルコート
8x30機を欲しかったので入手しました。左鏡板上の表示 KOFUKU SANGYO CO
.,LTD.は記念品としてユーザーの依頼で刻印された企業名だと考えていました。
ところがコーワの社史を見てびっくり! かつての社名だったんだ。
外観からすぐにわかるバージョンの変化は KOFUKU SANGYO CO.,LTD部分が
KOWA COMPANY,LTDに表記が変わったもの、この部分の表示がないもの
少なくとも3パターンは知っているが同じ表記でも接眼レンズがエルフレのものと
ケルナーのものがある様子。




下陣笠にはMOPの陽刻があり武蔵光学製であることを示す。
ただし武蔵光学製でも基台製造は特定ではなくこれはJ-E10。

上陣笠(目幅目盛板)を取り外すと真鍮製円板で固定されている。
この円板には回転止めのロックネジがあるものとないものがあり
この製品ではロックネジありのマイナスネジタイプ。2点穴タイプも
あるがメーカーや製品によってこの合焦腕固定ネジは異なる。

右合焦腕取り外しまではツァイス・デルトリンテムタイプの双眼鏡で
共通だが、左合焦腕固定タイプ(ニコン製双眼鏡など)では下陣笠
よりアクセスして底部から昇降軸規制ネジを取り外し転輪・昇降軸と
合体した状態で取り外す必要がある。

多くのこのタイプの双眼鏡の左合焦腕基部裏側には突起があり、その
突起が昇降軸上部のディスク切り欠きに嵌合し回転止めとして機能
しています。その機構によって転輪の回転が合焦腕を上下動するように
運動変換します。戦後の製品の多くは鏡板固定に1本のビスと接眼外筒
ネジが使用されています。またポロプリズム式ルピナスでは初期の製品
からプラスネジが採用されており同時期の他社製品より製品へのプラス
ネジの導入が早かったのではないかと思います。そのような製品特徴と
刻印された社名からこの双眼鏡の製造年代は昭和30年代前半と推定
しています。接眼レンズ形式がエルフレからケルナーに変更されたのも
社名がコーワになってのちに変更されたと推定されこの製品ではエルフレ
を採用しておりこの双眼鏡の国内基準品である東光マグナに倣ったと
判断しています。

接眼スリーブ(接眼鏡外筒)を取り外すにはベルトレンチを使用します。
素手でも回転可能ならそれでもいいですが、プライヤーなどは変形を
招くため避けるべきです。ベルトレンチには使用方向がありますので
その方向に回転させないと機能が発揮できません。

鏡板を外したらマイナスビスで固定されたプリズム押さえ金具を取り外す
とプリズムが取り外せます。プリズム形状には色々なタイプがありますが
この双眼鏡では接眼筒側に切り欠き部分が大きいプリズムが使用されて
います。

転輪と昇降軸の接続部の肉厚が薄いせいか過大な力が加わったのか
軸基部で転輪と分離破損し転輪のみクルクル回りピント調整不可の状態
でしたので他製品から流用した同じ部品と交換しました。実は8X30機は
多数存在するので部品自体の流用はかなりの部分で可能です。

鏡版の刻印が時期によって異なる例
戦前、昭和初期のアース光學製8×28アース双眼鏡
下側が古く EARTH KOGAKU CO LTD 上側の新しいものは EARTH
KOHGAKU K.Kとなっているだけでなく接眼レンズが初期のカシメ固定から
枠にはめ込みカニ目リングで固定するアイレンズへと変更されている。
またこの双眼鏡の昇降軸回転止めにはオペラグラス同様の角型軸による
合焦腕固定が採用されている。
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