をかしの庭

なにげない日常の中にも、心ときめく現象や出会いがあります。 遠くに出かけずとも、内面に大きく語りかける身近な映像、そんな写真がお届けできれば良いのですが…。

ヒドリガモ雌の雄化ステージ その3

ヒドリガモのメス雄化を外観上3分類する記事は今回が最後となる。
これまでの観察上得られた雄化の判断点に大きな矛盾はないと思うが、その原因や
バリエーションについては依然として不明点が多いのも事実です。
それら詳細な問題点については本文中で明らかにしたいと思います。

まずは最近のヒドリガモ画像から
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ヒドリガモ メスA 芦ヶ池 2012年3月中旬

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ヒドリガモ メスB 芦ヶ池 2012年3月中旬

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ヒドリガモ メスC 芦ヶ池 2012年3月中旬
何れの画像にも脇の横斑は認められず、肩羽の斑も多くはありません。
しかし画像Cでは肩羽に薄い複数の斑が見られます。これが明瞭で多くなり脇に横斑が
見られるようになると雄化兆候だと判断できるのではないかと考えています。
但し、このステージでは原因となるストレスから開放されるなどすると、雄化羽装は
正常な状態に復元しうるのでは?とカモ飼育個体観察から推察しています。

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ヒドリガモ メス初期雄化 芦ヶ池 2012年3月中旬
上3枚の画像より脇の横斑が明瞭で肩羽に鷹斑(たかぶ)または杉綾模様のような
過剰斑が認められる。また色味がややアイボリー味を帯びて淡色傾向。
胸付近の横斑は背までつながり、リング状に見える。

ナベヅル飛去と至近のカモ
ヒドリ雄化メス
の両過去エントリーにも一部初期雄化画像がありますので、御参照下さい。

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ヒドリガモ雑種 メス初期雄化 2011年12月中旬 松原市西除川
中等度雄化でも紹介しましたが、こちらもアメリカヒドリとの雑種メスの雄化だと
思われます。

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アメリカヒドリのオスと行動を共にするヒドリガモ・メス初期雄化 2009年2月中旬
兵庫県西宮市

ヒドリガモ雌の初期雄化個体との遭遇はそれほど珍しいものではない。
しかし、過去の論文報告でもヒドリガモの雄化は取り上げられたことがなく、黒田長禮博士も
動物学雑誌51(3)168 1939 「雁鴨科の雑種と變り」でマガモ、コガモ、
オナガガモについて・・・共通の特徴は体にある波状斑が常に幅広きことである。と
述べているに過ぎない。
今日、オナガガモの雌雄化例だけが殊更に取り上げられ、他種の雄化例が忘れ去られている
理由を私は知る由もない。例として図鑑で取り上げられたのがオナガガモだったというだけの
ことかも知れない。

カモの雌が雄化する原因についてはオスとメスのあいだ ~雄化を探る~において
一度取り上げているが、飼育個体に雄化が多く見られることから、老齢説、散弾等による負傷説や
先天性性染色体異常説よりストレス原因説を大きく支持している。
動物園で飼育されているようなカモが散弾を多く浴びているとか化学物質に大量暴露されているとは
考えにくいからです。
また、雄化個体の画像として取り上げられているものの中に人面獣身のように頭部はオスなのに体部
だけがメスだというものが複数見つかる。私はこのような状態の雄化例を見たことがないので実際に
見てみないと何とも言えない。多くの例で幼羽から第1回繁殖羽への移行過程で頭部を優先的に換羽
するマガモ属のカモが見られるので、この辺の換羽事情も念頭に置いて、本当に雄化例なのかを判断
する必要がある。
この冬、大和川で撮影されたというコガモ雌の中等度雄化写真を最近見せて頂いた。
初期雄化はメスとの判別が難しく、高度雄化はオスとの判別が難しいため、中等度雄化例をもっと
知らしめることが、雄化を理解する近道ではないかと思う。

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Evidence of introgression

Evidence of introgressionとは遺伝子移入の証拠といった意味です。冠詞を付けず
に表記するのが正しいのかどうかは知りませんが。

前々回のエントリーで取り上げた種間の雑種で世代を経たもののうち戻し交配を
通して別種の形質が残存することをintrogression イントログレッション、遺伝子
浸透という。

普段、私たちはこのような現象がそれほど身近にあるとは感じていないが、それでも
時折これはイントログレッションの痕跡ではないかと感じる特徴を有するカモがいる。

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白い首輪のあるオカヨシガモ 2009年3月中旬 兵庫県西宮市

イントログレッションという表現があることを初めて知ったのは、鳥関係のある方の
ブログがきっかけでした。
その方のブログ内容にはアメリカのオカヨシガモにはヨシガモの遺伝子が含まれている
というものでした。これを説明する2つの仮説に遺伝子浸透説が出ていました。
ここで明確にしておかなければならないのは、その方は白い首輪が遺伝子浸透の結果だ
と述べているのではなく、この記事が白い首輪と関係があると私が考えているに過ぎない
ということです。というのは白い首輪はヨシガモだけでなく、マガモにもあるからです。
もっと言えば、かつて千葉県で観察されたアカハジロにも不明瞭な白い首輪が存在したの
ですから。
最近、撮影地近くの隣の浜を観察している方がこのオカヨシガモを取り上げています。

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わずかにアメリカヒドリの血統を感じるヒドリガモ 2011年12月中旬 大阪南部

目の周囲に緑色光沢がある、勾玉状に濃色部が見られるといった特徴は嘴の基部に黒色線
が見られる事以上に残存しやすい形質ではないかと思われる。
体部の灰色波状斑もややぶどう色を帯び、後方のヒドリガモとは印象が少し違う。
山渓ハンディー図鑑7 増補改訂新版 日本の野鳥に掲載されているヒドリガモ成鳥♂
の写真は今回差し替えられて、どいうわけかアメリカヒドリの血統を感じる個体に変更
された。どうも今回の写真がより純粋なヒドリガモだと判断した結果なのだろう。
少なくとも頭頂のクリーム色が白っぽく、頬が淡色になるのはアメリカヒドリ寄りだと
思えるのですが、いかがでしょう?

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マガモの血統を受け継ぐカルガモ♀ 2011年3月初旬 イタスケ古墳

マガモの血統が入るとカルガモの三列風切羽縁の白色部は広くなると言われています。
しかし、純粋系統と思われる極めて人里離れた場所の個体群であってもこの白色部の
範囲は様々です。この個体に関しては次列風切に白色部が及んでいるため部分白化と
呼ぶのがふさわしい表現だと思われます。 嘴先端嘴爪の黒色部に注意して下さい。
全体が黒いですね。カルガモの黒色部はつぎの写真のように一部のみです。

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カルガモの比較用写真 同月同所 左が♀です。 雌雄共に嘴爪の前面のみが黒いのが
お分かり頂けるでしょう。
このように遺伝子浸透の結果だと思われるわずかな違いは多くのカモに見られるのです。

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ヒドリガモ雌の雄化ステージ その2

しばらく間が空いてしまったが、ヒドリガモ雌の雄化 その2

このステージは恐らく雄化について詳しくない方でも雑種かエクリプスだと思って
しまうほどの外観特徴をもっている。それは特徴的な太い横斑の発達による。
このように特異な外観は我々の目にのみ異質だと映るのではなく、同種のカモの目
から見ても奇異に見えるようで一般的に番(つがい)形成を見ない。
この中等度雄化は雄化を理解する上で象徴的な段階でもあると考えている。それは
このステージの初期にはまだメス的な態度であるのに対して後期になると、オス様
の振る舞いが見られる時が出てくると感じているからで、前期段階であれば進行が
停止あるいは雄化兆候が消えてしまう可逆性進行なのに対して、このステージ以降
不可逆性に進行するものと考えている。ただその原因によって雄化進行のスピード
には大きな差があり、羽衣にほとんど変化がないものから急激に進行するものまで
多様であると言えそうな気がする。

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ヒドリガモ雌の中等度雄化非繁殖羽 芦ヶ池 2011年10月中旬

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ヒドリガモ雌の中等度雄化繁殖羽 市内別池で 2012年3月初旬

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アメリカヒドリXヒドリガモ雌の中等度雄化繁殖羽 大阪南部 2011年12月下旬

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アメリカヒドリXヒドリガモ雌の中等度雄化繁殖羽正面俯瞰 大阪南部 2011年12月下旬
発達した横斑が全体を包んでいるのが見える。雑種と雄化が同時発生することもある。
個人的にこのステージを横斑発達期としているが、その理由がお分かり頂けるのでは?

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上と同一個体の飛翔時画像、嘴先端が切れてしまったが体上面がよくわかるでしょう
大雨覆が白いのは雄化によるものか、アメリカヒドリの血統のせいか不明だが後者が濃厚か?
上はヒドリガモの雌

ヒドリガモ、マガモ、コガモ、オナガガモでは同様に横斑発達期が認められるが
ヨシガモ、オカヨシガモ、ハシビロガモなどでは異なった外観を持つようだ・・・
ただヒドリガモ以外のカモでは観察例数が少なく、よく理解できていないだけかも知れない。

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ニシこそオジロビタキ

まずは現在大阪に滞在中のオジロビタキ2羽

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昨年末から堺市内近所の公園に滞在中のニシオジロビタキ第1回冬羽

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堺市の個体と同時かやや遅れて見つかった大阪市内のニシオジロビタキ第1回冬羽
右の足趾に障害があるのか十分開いていない。そのせいか枝上で座り込んでいることが多い。

【オジロビタキの分類】

日本鳥学会発行の「日本鳥類目録 改訂第6版」では日本に渡来するオジロビタキは
Ficedura parva albicilla (Pallas,1811)フィケデュラ パルワ アルビキラ
英名 Red-breasted Flycatcher レッドブレステッド フライキャッチャー の一種
のみで他の亜種は記載していない。

学名の読みをフィセデュラ パルバ アルビシラとするのは英語圏での自国語読みで
カエサルをシーザーと読んだり、韓国の元大統領 金大中 氏をキム デジュンと
せず きん だいちゅう と読んでいたのに等しく、好ましいことではない。

ところが雑誌Birder 12巻9号 1998年9月号で森岡照明氏は
「新しい識別の試み 第17回」で亜種の識別に触れ、鳥学会も山階鳥研も亜種分類はして
いないが分布記載から亜種については同見解と思われるとしている。
旧分類ではオジロビタキには3亜種存在したが、明らかに外観上の違いが認められるカシミール
ヒタキ(カシミールオジロビタキ)が独立種として分離され
基亜種Ficedura parva parvaと亜種F.p.albicillaに2分されたいきさつと
その識別法を多くの写真と共に4ページに渡って解説している。

同じく雑誌Birder 22巻5号 2008年5月号で茂田良光氏は
「オジロビタキの分類、最新情報!」で上記2亜種は独立種として扱われるようになった
(Svensson et al. 2005) ことを記載し再度両者の相違について述べている。
独立種として扱った場合
オジロビタキはF.parva 英名 Red-breasted Flycatcher
F.albicilla 英名 Taiga Flycatcher の2種に分離される。

更に同じく雑誌Birder 25巻6号 2011年6月号で大西敏一氏は
「オジロビタキの謎 ~ヒガシとニシ、多いのはどっち?」で鳴き声の違い及び
両亜種の渡来状況について触れており、実際に多かったのはニシオジロビタキであると
報告している。またF.parvaが積極的に日本で越冬するとは考えにくいとの
Svensson氏の書簡から第3の種か雑種の可能性もありうるとしている。

以上の資料は比較的入手しやすく参考にした上で今冬のオジロビタキの渡来状況から
自分なりの識別点や問題点をまとめてみた。

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※ 観察例数番号の背景が灰色のものは自身で直接観察したのではなく、web画像等で判断
※ 観察の初認・終認は公式なものでなくおおよそ見られた期間。2値併記でないものは撮影月
※ a/pはオジロビタキ、ニシオジロビタキの種小名の略、ここでは独立種として扱う
※ 雌雄・齢のAWは成鳥冬羽、2Wは第2回冬羽の略

資料を元に判定したオジロビタキの出現率は1/14と極めて少ない。
私の判断間違いもあるだろうが、オジロビタキが出たといえばニシオジロビタキ第1回冬羽である
と考えてもあながち間違いといえない高い出現率を示す。

【オジロビタキ(ヒガシオジロビタキ)】albicilla1
2008年岸和田市 オジロビタキ第1回冬羽
嘴に肉色・橙色味が少なくほぼ黒い。中央尾羽の黒味より最長上尾筒の黒味が強い。
三列風切羽軸終端に白っぽい淡色斑が見える。大雨覆先端が淡色で白色帯に見える。
鳴き声がそれまでに見たオジロビタキより連続的で明らかに異質であった。
等の点からそれまでに見て知っているオジロビタキから、これこそがニシオジロビタキだと
考えていたが後日実はこの考えが正反対であることを知ることになった。

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この角度でも下嘴に橙色味は見えない

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腹面にはバフ色味がかなり少ない

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この画像では下嘴基部に明らかな肉色味があり、腹面全体がバフ色に見える

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真横から見ても下嘴基部の橙色味は目立たない。目先と目横の頬が赤褐色
以上が数少ないと思われるオジロビタキ画像

【ニシオジロビタキ】
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ニシオジロビタキ オス成鳥冬羽 徳島県 2007年3月

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上と同一個体。姿勢によって喉の橙黄色は広く見える

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ニシオジロビタキ 第2回冬羽 三列風切の羽縁淡色はまだ認められ、頭部羽衣のガサガサ感
も残存している 2009年1月 兵庫県

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ニシオジロビタキ成鳥メスと第1回冬羽の違い
1.頭部羽衣・・・若い個体にはドレッドヘアか大仏様の螺髪のようなザラザラ感がある
2・大雨覆の羽先淡色部が白線状に見えるのは若い個体
3.三列風切羽の羽縁特に外弁側が淡色の縁取りに見える、羽軸終端が白点状に見えるのは
  若い個体
以上のようなポイントから幼鳥であると判断できれば、雌雄の判断は不可能。
オジロビタキよりニシオジロビタキの換羽は遅いとされ、生後翌年の夏羽を待たないと雌雄
判断できないとされている。

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ニシオジロビタキ メス成鳥 2008年11月 堺市
上で取り上げた点を元に見てみるとメス判断を支持していただけるのではないだろうか?

フィールドで可愛いしぐさのニシオジロビタキを見ていると心和むものであるが、一般には
オジロビタキに対する理解が進んでいないだけに様々な誤解が聞こえてくる。
ミルワームで餌付けする事自体はどうこう言う気はないが、若い鳥の雌雄判断が出来ない事
くらいは覚えておいて欲しいと思う。

最近出版された図鑑はほぼこのオジロビタキ亜種の存在に触れており、徐々に一般への認識
も浸透しつつあるように思えるが、分類に関しては「日本鳥類目録 改訂第6版」の制限を
受けており、一刻も早く第7版を世に出し、現状との齟齬を解決してもらいたい。
また、両種の詳細な分布が早期に解明されることに期待したい。


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