をかしの庭

なにげない日常の中にも、心ときめく現象や出会いがあります。 遠くに出かけずとも、内面に大きく語りかける身近な映像、そんな写真がお届けできれば良いのですが…。

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瞳を閉じて~羽は語る

Fermer les yeux フェルム レ・ジュー 昔の仏シャンソン歌手
リュシエンヌ・ドリールが歌った曲です。「眼を閉じて」という邦題だった
かも知れません。   私の家にはステレオシステムやレコードプレーヤが
なかったのでレコード盤は何枚か持っていても、本格的に聴くようになったの
は浪人時代にアルバイトしてステレオシステムを購入してからでした。
当時はフォークソングやクラシック(チェンバロ)やシャンソンをよく聴いていました。
ピアフの伝記映画を見たことがキッカケで歌手別の廉価版アルバムを手当たり
次第に買っては聴いていたものの中で、特に気に入っていた歌手です。
「Luna Rossa(皆既月食の夜)」記事も彼女の歌のタイトルです
本日の記事内容はこの歌の内容とは関係ありません。

瞳を閉じて 静かに大きく深呼吸して 耳を澄ませなさい
聞こえてくるでしょう 鳥たちの 羽の語らいが
遠すぎて 聞こえない(研究者の小難しい論文)こともあれば
近くの騒音で遮られて(先輩や友人の教え)聞こえないことや
虫の鳴き声に埋もれて(図鑑の説明)聴きとり難いこともある
かもしれません
必ず羽が語ると信じていれば、やがてその声は聞こえてきます


何も鳥たちの風切が空を切る羽音のことではありません。
世の中には信じて疑わない事柄が、実はとんでもない虚偽であるということが
少なくありません。最近では有名ホテルの高級食材にまつわる表示、警察による
犯人誤認長期拘留、医師の処置ミスとその虚偽説明…挙げればキリがありません。
鳥や野草や自然の中の出来事を見ていて、「どうして」とか「何これ?」とか
思うことはよくあります。図鑑や専門書を読むと、それらの疑問が解決したり、
更に謎が深まることは、誰でも経験することです。鳥のことなら鳥類学者や
研究者、図鑑著者や鳥類標識者(バンダー)の方なら、さぞかし豊富な知識を
お持ちで、鳥に関する疑問なんて持っていない方達だと昔は思っていました。
ところが、こんな方達ほど何がわかっていなくて、何が既にわかっていることだ
とはっきり区別して認識しています。私自身、ひとつの疑問が解消すればみっつ
の疑問が湧いてくるようで、自然に対する疑問は深まるばかりです。

【カモの雌にも繁殖羽は存在する】
多くの方は、雄にエクリプスや幼羽の時期があって、外観が冬~春とそうでない
時期で異なることを知っています。
ところが雌にも非繁殖羽と繁殖羽があって、幼羽とも異なることを知っていないか、
知っていても区別できないと思っているようです。
私が雌の非繁殖羽と繁殖羽を意識するようになったのは随分前のことで、外国に
お住まいの日本人の方がマガモの雄と雌の換羽サイクルを分けてグラフにされて
いるのを見たときからです。
しかし、その違いがはっきり意識できるようになったのは、まだ最近のことで、
カルガモの換羽・雌雄差に着目してからでした。
では具体的に雌の繁殖羽は雄と比べてどのくらい遅くなり、どんな外観でいつ頃
まで見られるのか一緒に考えてみましょう。

鳥全般にほぼ共通する外観は、雌雄幼鳥は雌成鳥に似るというものがあります。
ほぼと書いたのは雄が子育てするタマシギなどは、この逆になるからです。
物事を考える際の手順として、分類のより上位の階層に共通する特徴を元に論理
を組み立てる必要があります。次に頭部に見られる頭央線や過眼線などは雌のみ
に顕著で繁殖羽の雄には見られにくくなります。 アマチュアが観察から断定を
することができる内容は結構限られています。そこで、研究者が標本や解剖等の
精査から得られた知見や調査器具によるデータ解析からはじき出された結果と
観察から得られた事柄を擦り合わせて結果を得るくらいが関の山です。
A=B、B=Cは結果A=Cと言えるというような、結構遠回りな方法ですが、
証明する方法があるならば、それは遠回りしてでもやる価値があります。
学生時代は数学が苦手で、教師と目を合わせることを極力避け、少しでも早く
苦痛な時間が過ぎ去るのを待ったものです。ですから定理や法則を駆使して、
何かを証明するのは向いていないのかも知れません。

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2011年3月19日撮影 芦ヶ池 第1回繁殖羽雌雄ペア
このヒドリガモの雌は三列風切伸長中で、三列に模様はありません

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こちらはおそらく第2回繁殖羽のヒドリガモ雌成鳥、上と同所同日
外側三列風切にグラデーションをかけたような濃淡模様が見えますね。肩羽も同じです。

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今度は2010年10月10日同所撮影のヨシガモ雌成鳥。

ボロボロになった三列風切は模様があって、上背付近の肩羽も繁殖羽のままです。
以前、越冬地に到着してから三列風切を換羽するのは若い雌としたことがあります。
ところが状況によって、雄でも雌でも越冬地到着後に三列風切を換羽する個体が
いて、換羽の順序は個体差があるようです。

上に挙げた画像の内容から推測できることは、雌の繁殖羽は雄よりかなり遅い2・3月
に完成し、中には10月になってもその一部を残す個体がいるようだということです。
これは雄の場合、エクリプスの期間が短いことと逆の傾向を示し、雄では冬季~春にかけ
鮮やかな繁殖羽となることから、一般の鳥類とは繁殖羽の時期が異なるとされますが、
雌に注目してみると、そうとも言えないことになります。

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2010年5月30日 堺市西区  子育て中のカルガモ雌親

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2010年7月3日 堺市大和川下流 子育て中のカルガモ雌親

上に挙げたカルガモの雌にも三列風切に濃淡のある模様のようなものがあります。
実はこれまでに観察した子育て中のカルガモ雌の三列風切には9割程度の個体に
このような模様があります。
この模様について、かつて雑誌「採集と飼育 第50巻7号」で「鳥たちにとっての
1970年代」のコラムとしてカルガモの記事を書いた中村一恵氏が雑種に現れる
虫食い斑として、純粋なカルガモには見られないと記述している。
中村一恵氏は元千葉県の学芸員さんで館長も経験された、哺乳類が専門の方らしい。
氏がこの記述をしたのは1988年のことで、翌年山階鳥研報で今村・杉森両氏に
より「羽色に基づく繁殖期のカルガモの雌雄判別」が報告され、その中で両氏はこの
虫食い斑をsubmarginal marksと呼んで非繁殖期の雌幼鳥4羽に見られたと報告し
ているが、採集されたのは栃木県下5月であるから第1回繁殖羽期に相当する。
また報告の中で両氏は中村氏の記述に触れ、調査内容からこのsubmarginal marks
が齢の違いによるものか、雑種によるものか判断できないとしている。
カルガモだけの調査からは明らかにできなかったであろうが、ここで鳥類の専門機関
たる山階鳥類研究所が中村氏の雑種説を否定しなかったことは、以後に響くことになり
現在もこのsubmarginal marksが雑種の根拠としている方が多い?
実はマガモ属の雌繁殖羽では高い確率でこのsubmarginal marksが見られ、一部明瞭
でない種もいるが、雌の羽の変化を知っているカモ観察家なら、雑種由来ではなく時季
つまりホルモン変化と換羽が鍵
であることは容易に推定できる。
因みにsubmarginal marksとはシギチでよくお目にかかるsubterminal band同様
羽のへり付近にある濃褐色の模様というような意味。中村氏の記述では虫食い斑として
いるが、マガモ属の多くやスズガモ雌雄等の体羽に出現する波状斑と混同するおそれが
あって呼称をspotやfringeと併せて変更したものと考えられる。
中村氏は外来種の影響等の研究をされたので、さしたる確実な根拠がなくとも冬場に
見るカルガモの雌には見られない羽ということで、雑種由来説を唱えたのだと思う。
この辺はアマチュアが科学的根拠を提示せよと求められるのに対して、学芸員としての
立場を利用した暴論と言わざるを得ない。氏にとっては外来種と同様に飼養マガモや
アイガモとカルガモの交雑という、自身にとって好都合な題材となり得たからです。
氏がコラムの中で使用している写真はアイガモ雌との体長差から考えて、明らかに
雑種カルガモですが、その三列風切の虫食い斑は雑種が原因ではありません。
こののち、1995年11月に鳥類画家の氏原氏は雑誌Birderにカモの季節がやって
来た「雄・エクリプスと雌の見分け方」を書いて、なぜか、雄エクリプスの時期に
比較できない雌繁殖羽の写真を多数使用し、p.43のハシビロガモの欄で上述した三列
風切の変化に触れている。インターネットが普及していなかった当時、数年の時間差は
あっても中村氏の記述と山階鳥研報の下敷きがあって暗にこれらを否定したものだった
のでは?と昨年雑誌Birderの古い巻号を読んでいて驚いたものでした。

アマチュアの声はいくら大声で叫んでも記録には残りません。組織に入らなければ
その世界の人間として認められません。しかし組織の上下関係に左右されず、正しいと
信じたことを追求するのにはアマチュアほど自由な存在はありません。 多分これから
先もどこにも属さないアウトサイダーで居続ける気がします。

vermiculation
最後に波状斑水色円の拡大が右上 2010年3月下旬 芦ヶ池
英語のvermiculationの訳が虫食い斑、波状斑ということになりますが
今回のようなこともあるので、分けて表現した方がいいですよね。
秋の夜長、久しぶりにシャンソンを聴いたら泣けてきます。

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