をかしの庭

なにげない日常の中にも、心ときめく現象や出会いがあります。 遠くに出かけずとも、内面に大きく語りかける身近な映像、そんな写真がお届けできれば良いのですが…。

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ウルトラ級変身

本日の話題は靴関連記事に戻って、シューツリーのはなし

革靴マニアたちの間ではしばしば高級ブランド靴や素材である皮のなめし技術や
その業者タンナーのことはよく話題にのぼりますが、洋服ならばハンガーとの関係
にあるシューツリーの歴史や用途に正確に踏み込んだものを知りません。
もっとも、私が知らないだけで、この分野では多数のMOOKが出版されたりしている
ので、どこかにその記事は存在するかも知れません。
良く知られた話題では帰宅後、靴を脱いでどのタイミングでシューツリーを入れるか
というものがありますが、私はどちらも大して違わないと思います。 どちらというの
は帰宅後に脱いだらすぐ入れる派と一晩程度そのままにして、一定時間経過挿入
する派です。この問題についてはあとで触れます。

jm-displayfiller
先日ひょんなことから、安価で入手に成功したディスプレイ・フィラー。エンブレムが
愛用靴のジョンストン・マーフィーだったので譲っていただきました。 どのような経路
で私の手元に来たか不明ですが、見た途端、これは使える!と直感しました。

10数年靴もシューツリーも購入していないので、最近の事情はよくわかりませんが
レッド・シダー(アメリカ芳香杉)材の中国生産ツリーが普及して、かつては高級品で
1万円ほど、廉価品でも2千円近くしていたものが、どれもブランドさえ拘らなければ
2千円ほどで入手できるようになっています。靴の世界でも山陽山長、宮城興業に
インドネシア産ジャラン・スリワヤが有名になっていて、かつてのスペイン産靴製品の
台頭を彷彿とさせます。リーガルのフラッグシップもジョンストン・マーフィー国産品の
製造からシェトランド・フォックスに移行して随分様変わり、10年ひと昔の様相です。

ところでディスプレイ・フィラーというのはシューツリーの一種ですが、小売店や販売
促進目的で特別につくられた、展示用製品です。そのため、靴の中に隠れて見え
ない前足部分はたいてい黒いEVAという柔らかな素材で置き換えられ、人目に触れ
豪華さを印象付ける踵部分はブランドのエンブレムがつけられ、ローズウッドのような
塗りが施されているものが多いです。今回、見つけたものはアメリカの有名な製靴
ブランド、アレン・エドモンズ傘下、ウッドロア製と考えられるものです。
アメリカで著名なシューツリーメーカーは他にオールデンのシューツリーなどを製造
しているロチェスターなどがあります。レッド・シダー材でシューツリーを製造している
メーカーは他にもありますが、ウッドロア、ロチェスターは2大ブランドと言えるでしょう。

rochester
ロチェスター社のシューツリーです
ハンドル部分(かかとの部分)がフックバックといって鉤状になっているものと、棒状の
ものがあって、棒状のものがやや廉価な分、かかとの型崩れの懸念があるように言わ
れる場合もあるが、かかとにしっかりと半月芯が入ったグッドイヤー製法の靴ならまず
その心配はない。仮にカーフを使用した国産マッケイ製法の柔らかな靴でも特に大きな
ダメージは出ないはず。気になるようならハンドル後端に厚革やゴム板をあてがえば、
それで事足りる。シューツリーは高い製品ほど高品質というわけではない。
ロチェスター社の製品はウッドロア社のものより真鍮製金属チューブの口径が太く約
12mmほどある。また、前足部のチューブ取り付け金属板が閉じた状態で後方にせり
出す傾向が強い。更にそのブランドを誇示する刻印がチューブに見られる。

rochester-engrave
ロチェスター社のシューツリーには明瞭な刻印がある
ROCHESTER SHOE TREE CO.
ASHLAND. NH. USA.       ・・・の刻印が見える

さて、今回入手したディスプレイ・フィラーはウッドロア製だと書きました
実はこのウッドロア製のシューツリーパーツ、かかと部は各サイズ共通です。
また、マーケンや中国で生産される多くのツリーと互換パーツとなっています。
そこで、入手したものがLサイズであっても、マーケン製のSサイズ前足部と付け替え
すれば、Sサイズの実用シューツリーが出来上がるのです。
jm-part-exchange
ご覧のようにノーブランドの廉価版樺材シューツリーが付け替えられます。
写真撮影用に意図的にハンドル部は左右逆にとりつけています。
写真からもハンドル部の大きさはサイズに関係なく同じ大きさというのがわかります。

廉価版シューツリーで容易に部品変更が可能ということが判明したので・・・
実際にレッドシダー材のシューツリーとパーツ交換します。
cedertree-part-off1
使用したのはアメリカ、P&M Cedar Products, Inc.のCEDAR PRO II
前足部分を固定してかかと部のハンドルを左右どちらかに90度捻ると簡単に外れます

cedertree-parat-off2
前足部とハンドルが分離したシューツリー、前足部の金属板が上下にずれています

jm-pin-off1
今度はディスプレイ・フィラーの分解です。
前足部側面の穴に細いプラスドライバーを差し込むと、簡単に固定軸が外せます

jm-pin-off2
固定用の木軸が外れて、前足部とハンドルが分離しました

jm-synthepart1
ディスプレイ・フィラーのハンドル部をシダーツリーの前足部に逆手順で捻って取り付け
完成したのがこちら。私のSサイズ専用ツリー豪華版が1足完成しました。
ちなみに、このタイプの正規品はウルトラ・シューツリーという製品名で実在しており、
ヨーロピアンタイプのツインチューブ式ツリー、エピック・ツインチューブより高価で販売
されています。製品版のウルトラ・シューツリーのかかと部はレッドシダー製ですが、
ブランドプレート入り、ローズウッド調ツリーが安価にできたわけです。

面白いことに、ツリーのパーツは大半が互換性があるため、各メーカーが自社デザインに
固執せずいろんな製品を展開しています。ただ、アメリカ製シングルチューブ・ツリーに
由来するパーツはかかと部分のサイズが共通、ヨーロピアンデザインのサイドスプリット
タイプ製品は前足部が共通部品であることが多く、ヨーロピアンデザインのものはかかと部
パーツを後方に延長することでワンサイズ大きくしたものが見られます。ただ、どの製品も
サイズに応じてパーツの大きさを変える必要のあるものもあり、全サイズ共通のツリーなる
ものはつくれないことはないですが、とても稀です。
ネットオークションサイトでは、これとよく似た、ブルックス・ブラザースのディスプレイ・フィラー
が出品されているのを見ます。よくは似ていますが、こちらはかかと部の形状底部がフラット
なのでロチェスター社製のようです。同じように、ロチェスター製ツリーとパーツ交換できます
が、元のツリーの価格が高目なので改造する意味がやや薄れそうそうです。

john-lobb-scott
完成したツリーを装着状況がわかりやすいように、シュータン(ベロ)のないギリーシューズ
に挿入してみました。 ジョンロブのscottです。
なかなかいい感じにどんな靴でもフィットしてくれます。
明日は続きで、シューツリーのいろいろと用途について触れます。

※ 以下の記述には推測の部分が含まれていますので、ご注意ください。
明日書くとしていた内容が、都合で2日遅れになりました。

シューツリーの歴史はどこでどのように始まったのか、何の資料も博物館知識もない
私の頭では想像するのがやっとです。
初期のツリーは恐らく、製靴用ラスト(木型)を靴内に収め易く単に切断分割しただけの
ものでなかったかと推測します。実際にロングブーツ、例えば騎乗用長靴のツリーは、
爪先、甲、脛部分が一体化した部分・踵側とふくらはぎが一体化した部分、その間を
繋ぐくさび板かもう少し部品点数を増やしたもので構成されています。
製靴業の発展と工業の進歩は金属部品の供給やより実際に使いやすいツリーの開発
に向かい20世紀前半には今日見られる大半のツリー原形が完成していたと考えられ
ます。歴史的にツリーは下記の3部分から構成されますが、木型の一部やビスポーク、
スミズーラと呼ばれるフルオーダー製品には現在でも2部分からなるツリーが見られます。

前足部(fore part)、 連結部(connective part)、 かかと部(back part)
前足部が単体(mono block)のものと、別体(separate, or split block)があり、
連結部は木製、金属製のものがあって、ネジ・スプリングで長さ調節を行い、金属チューブ、
スライド式ヒンジで前足部・かかと部を連結しています。金属チューブ連結式では1本式、
2本式のものがあってシングルチューブ、ツインチューブ(ダブル・バレル)などと呼ばれます。
シングルは捻じれに弱く、押しバネの反発力が均等にかからないなどの欠点がありますが、
実用上十分です。
また用いられるバネには押しバネ、引きバネ、板バネがあり押しバネの他は簡易製品に用い
られることが多いようです。 かかと部を引き外す場合に補助部品付加や加工をされる場合
があり、かかと部を鉤状に加工(横から見て寝かせたU字状)したものや、指が入るよう穴が
開けられたもの、ループ状ストラップがつけられたもの、金属リングがつけられたもの、ドアの
取っ手のようなノブがつけられたもの、こん棒のような可倒式木部をつけたもの、またはこれら
を複合(鉤状かかと部にリング金具)で装備しているものも見られます。

構造上前足部の役割は大きく、そのためかかと部の形状を大幅に簡略したものやない物も
見られます。木型の原形をとどめるフルラスト・タイプ。木型の爪先・甲以外は棒状に省略した
ハーフラスト・タイプ(亜形として甲部まで省略した、米国ツリーに多い汎用タイプ)がある。
連結部に2つ折れシャフトを用いたタイプでは、豆型、樽型(バレル・ヒール)や円形板等の
最低限の型崩れ対策のみを施したかかと部をもったものも多い。
変わり種としては爪先部と甲以後の部分を連結部で2分割したアンティーク・ツリーも見られ
ます。

shoetrees1
シューツリーいろいろ1 全て英国DASCO社製と考えられるツリー
  ※ DASCO ダンケルマン&サンズ社

左から ハーフラスト、シングルチューブ式ツリー。かかと部はブナ木製ハンドル
     フルラスト、クロケット&ジョーンズ。ライム材シングルチューブ
     フルラスト、ジョンロブ、たぶんブナ材ツインチューブ、指穴かかと部

     フルラスト、ヤンコ、たぶんライム材ツインチューブ、サイドスプリット
      当初軽量素材=ライム材、DASCO製と考えましたがハートマン(独)
     製のようです。箱がドイツ語だったので気づきました。(10/3追記)

shoetrees2
シューツリーいろいろ2 全て仏国パーフェクタ社製と考えられるツリー
コルドヌリ・アングレーズのブランド名で展開している
左から、
     フルラスト、シングルチューブブーツ用ツリー、金属リング付かかと部
     フルラスト、スライドヒンジ式ツリー、金属ノブ付かかと部
     フルラスト、ツインチューブツリー、金属リング付きかかと部
     フルラスト、ツインチューブツリー、フックバック J.Mウェストン
     フルラスト、シングルチューブ、フックバック   同上
     
shoetree3
シューツリいろいろ3 リーガル用ツリーその他
左から リーガル・ウィーク販売促進用ツリー スライドヒンジ式 多分樺材
     リーガルネジ回転伸長式フルラストツリー ブナ? 台湾製
     リーガル ミレニアムモデル専用付属ツリー ブナ 多分ギルコ製
     DASCO 固定バネ棒式ツリー、前足部 ブナ。 バネは引きバネ
     DASCO 軸可動式バネ棒ツリー、前足部 ブナ。 バネは引きバネ
リーガル製は日本で商標権を取得する以前の米国時代20世紀中頃にはロチェスターが
後半期には極めて流麗で軽量なツリーになっているlことから、その加工技術は有名な
D.Mackay製に移行して、
日本国内でも初期製品には米国製ツリーが販売されていた
ものと推定される.。その後木型はよく似てはいるが台湾製(上、左から2番目ツリー)に
移行し現在のTL21、TL22、TY51に続くものと推定される。よってリーガル純正ツリー
とギルコ(独Gilco)はOEMでツリーを供給されている関係はあるが、他社とも供給関係
が存在するものと考えられ、国内のこれまでの製品には幅がある。
また上位ブランドのシェットランド・フォックスでは木製3分割ツリーをケンジントンシリーズ
専用として販売し、リーガル・トーキョーはパーフェクタ社製品を扱っている。
※ USA製リーガル・シューツリーはその後の追跡でロチェスターが担っていたようです。

metal-shoe
またSCOTTに登場してもらい、英国・アルミニウム製ツリーの紹介

metal-tree
アンティーク・ツリーの部類に入るのでメーカーは不明
供給先ブランドの刻印が甲部前面に見られ、2つ折れ金属シャフト式連結部をもつ
この製品は前足部の基部に固定されたネジ棒に沿ってダイアル回転によりかかと部
固定位置を調節するタイプ。他に鋸歯状ノッチスライドタイプ、多穴ピン穴可変式等の
2つ折れ金属シャフト式連結部をもつものが見られる。
このタイプはテコの原理を利用しているので、シャフト中央のボタンを押し込むとパチン
と固定された実感がある。

plastic-tree
最後にバネ棒タイプ(引きバネ)、プラスチック製ツリー 仏パーフェクタ製
実際にはドイツのoxford社が製造供給している
上は靴を買うと前足部分に入っている空気入りプラ型を利用した簡易ツリー
バネ板の後端にペットボトルの蓋を取り付けた応急ツリー。
新聞紙を丸めたものと割り箸でも応急ツリーは作成できる。

plastic-tree-in
プラスチックツリーを装着した
上から エドワードグリーン スリッポン
     ジョンロブ SCOTT

さて、記事冒頭で書いたツリー装着のタイミングだが戸外と室内の湿度差が激しい場合
すぐに装着したほうがいいと思う。(ビショ濡れ以外)逆にそれほど長く履いた後でなく、
室内の風通しが良い場合にはタイミングにこだわる必要はないかと思う。
金属、特に鉄は焼き入れをすると硬くもろくなる。これは急激な温度変化を与えた例だが
ゆっくり熱を加え、ゆっくり冷ませば焼き入れ効果はない。同様に多量の水分を含んだ革
は膨張して柔らかくなっている。いわば型崩れしやすい状況にある。これをツリーなしで
急速に乾燥させると予期せぬ型崩れが固定してしまう。そこで栄養分を完全に乾燥する
前に補給し、元の靴型に補正するのは重要なことと言える。
つまりは、ツリーの最大の目的は靴の原形を保持することにある。したがって、型崩れの
一種である靴伸ばしは意図的に柔軟化と乾燥固定を実施しているわけで、復元すると
意味がないことになる。一般に木製ツリーの利点のひとつとして除湿能力が挙げられる
ものだが、この能力に関してはシリカゲル等の化学製品や送気・送熱機能のある電気
器具ドライヤーに遠く及ばない。あるとすれば環境との間で湿度を調整する調湿効果で
あると認識すべきだ。そうすれば、プラスチック製や金属製ツリー(なんでplastic,metalで
ないのか?)の存在意義が理解できようというもの。絶対的な価値観として多様な木材
特に芳香と制菌効果のあるシダーが利用されることへの異論もない。 環境に応じて
使い分けすれば、カラフルで加工が容易なプラスチックでも利用価値はある。

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