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をかしの庭

なにげない日常の中にも、心ときめく現象や出会いがあります。 遠くに出かけずとも、内面に大きく語りかける身近な映像、そんな写真がお届けできれば良いのですが…。                なお、ブロとも登録等一部機能は使用しておりません。

双眼鏡嚢修復(2)

前回はゲルツ製双眼鏡の双眼鏡嚢の種類を紹介した。

今回は戦前の双眼鏡嚢の細部とその加工法や資材の変遷から
どのような変化が生じたのか少ない知識で紐解きます。

mikado-case
これは過去に紹介したミカド8倍機・・・おそらくアース光学製の
双眼鏡嚢です。内部は臙脂色の別珍張りです。
昭和最初期頃の製品かと思われますが革の保存状態その他
部品の残存も良好ですのでこの画像を元に話を進めていきます。

最初の頃は戦前の双眼鏡嚢というのは殆どが牛革製で全体が
革でできているのだと思っていました。ところが壊れた双眼鏡嚢
の剥がれた部分を見ると部分的に厚紙が使用されています。
言わばカルトナージュ(厚紙細工品)の技術と革工作(レザークラ
フト)技術を融合させた製品であることがわかりました。そのこと
により耐衝撃用のシェル的役割と軽量化を同時に満たしていると
知りました。

画像で説明しているフチ捻はレザークラフトの革切断面からやや
内寄りに線がありますがこれが捻と呼ばれるもので専用の捻引き
コテを熱してあてがいコバの補強をしているものです。双眼鏡嚢に
は他に縁から1cmほどの天面に施された飾り捻などがあります。
またこの天面の飾り捻は国産双眼鏡嚢に特有のもので外国産の
双眼鏡嚢では見られません。

case-abroad
戦前の外国製双眼鏡嚢・・・天面は手持ち取っ手付きのものがあり
ますが捻などの加工は見当たりません。左からASTRAL(英)、
SILVAMAR(独・ZEISS)、ブランド不明(仏)

taisho-era
国産初期の双眼鏡嚢(同一製造所製と思われる)、左から藤井レンズ製造所製
天佑號、アース光學製ZENITH(1)、アース光學製ZENITH(2)、アース光学製?
TOSKA、榎本光學製チトセ。この双眼鏡嚢のみではなくその後の革製双眼鏡嚢
天面には国産品ならほぼもれなく捻引きがあるのが特徴。
この大正期特有の双眼鏡嚢では吊り金具が側面の上部だけで支持していて
片側側面2点負い革通し型(底面に負い革が通る、片側上部1点と底面1点型、
側面1点及び負い革先端部擬宝珠留めタイプなどの複数の保持タイプがある。

jisaku
1年少し前に初めて双眼鏡嚢作成にトライした革製双眼鏡嚢第1作目。
革の縫い方も針の通し方も何も知らないのにとりあえずE.Krauss製の
ツァイスライセンス品feldstecher用に作成したもの。
この時点では床面の処理やコバ処理も何も知らない状態でのトライ
でしたので床面処理されていない革と床面処理された革は別種だと
思っていました。見よう見まねで駒合わせ縫いを実施していますが、
直角片側の革を貼り合わせにより厚みを持たせた上で縫製する様
なこともせず、縁落としも実施していません。芯材には市販PP薄板
内張りには合成皮革生地を使用し内部木型を事前に作成して型を
保持しながら作業した。実際に自分で作成してみると構造や精緻な
つくりがよく理解できる。擬宝珠金具に引っ掛けて固定する金属円板
金具は現在では入手できないのでアルミ板を円形に切り抜き3点で
外周に爪をつくり革に食い込ませた。鍵穴状の加工が難しいので三角
形外周とし内側にÝ字切れ込みをつくり折り返した。

jisaku-top
天面に革製取っ手を付けるなど当時の同型機の収納嚢デザインを
参考に作成したが縫いのピッチと鉢巻きとの縫い穴対応が一致せず
空隙に革を足してごまかしているのがわかる。

deraism
ゲルツ製Armee treider 6x20と同時期の19世紀末に作成されたと
考えられる仏ドライズム(Deraism)製オペラグラス収納嚢。
同じ様なミズシボの型押しが施されておりこのパターンの型押し革は
既に19世紀末には使用されていたことになる。現在ではルイ・ヴィトン
エピシリーズで有名ですが。

buterfly
当時のオペラグラスが収納されていたのは蓋部分とその開口部のみ
枠が強化され胴部分は芯のないソフトケース状のこのような収納嚢です。
仏ルメヤ(Lemaire)などが有名ですがこれは国産バタフライ製です。
蓋開閉ボタンの金具に蝶の刻印があります。

当時の双眼鏡嚢に使用されたのはスムースレザー主体でヌメ革に近い
茶色染めの製品が多いが合成皮革製や型押し革製のものも少数だが
見られる。

okako-greamy
岡田光学 グレーミー8x25双眼鏡収納嚢 昭和初期戦前

greamy-inside
内張りは濃い緑色の別珍張り。双眼鏡はグリース代替品の使用で分解
・清掃に長時間を要した。 負い革は底面を通らず側面下部の擬宝珠
金具に留めるタイプ。

fuji-newtype
富士光学製双眼鏡収納嚢 東京で実用新案登録された製法で作成
されており縫い目がなく蓋と本体下部にアルミ製タガによって補強されて
いる。ベロは欠損していたので香港製現代双眼鏡嚢についていた合成
皮革製のものに換装。

hanza-seiroku8x
日本陸軍の制六・・・十三年式双眼鏡の対物延長倍率拡大機8x30を
収納したハンザ写真用品製双眼鏡嚢

sengo
戦後の双眼鏡嚢では安い製品には豚革が使用され旧来の牛革製
双眼鏡嚢も縫製品から接着製法に変化した。
左:岡谷光学 6x30用 右:ニコン9x30用双眼鏡嚢 (戦後品)
やがて塩化ビニール接着製法の双眼鏡嚢からダハプリズム防水
双眼鏡に変化するに従いソフトケースが主流になっていった。

【 レーシングポニー自作 】
双眼鏡嚢の修復や接眼レンズカバーの製作にはこれまでのように
針縫いの一目一目で台上に置いた針を持ち換えたりするのが面倒
なので両手が自由に使えるレーシングポニーを自作した。
何を隠そう、名前だけ知っていた時には仔馬の競走馬だと思っていた
くらいに何をするものか全然知らなかった。

pony-explain
双眼鏡の分解・修理やレザークラフトよりもシューツリー自作などの
木工歴が長いので道具類は豊富にあり小物の製作なら設計図など
いらない。しかし市販品がどのような機能を持っているかぐらいは
リサーチしてすべての機能を盛り込みつつ端材の利用により材料費
を金具(トグルランプとネジ類など)とアーム材に限定したので市販の
最安品の半額程度で作成した。 実使用はまだなのでヘッドの革張り
はまだ行っていない。
アガチス、ホワイトウッド、レッドシダー、ブナ、バーチ・・・樹種も色々
画像はノーマルヘッド装着時

normal-head
アームの開閉にはボルト回転式など色々だがトグルクランプの一発
開閉の利便性には及ばない。ノーマルヘッド

bow
革を挟んだ状態でアームを45度前傾させた状態。ノーマルヘッド
アームを丸棒のついた台座で支えその丸棒に真鍮を巻いてボルトの
締め付けに耐えるようにしたので前傾・後傾だけでなく360度回転する

cramping
トグルクランプは横押し・引きタイプで能力が大きいほど大型になる
そのためフック金具をロングビスに変更して小型金具をポニー使用
に応用した。開口部は最大2cm弱ではあるが実使用には十分。

preciseA
ヘッドはノーマルヘッド(通常の縫い合わせ用)小物製作用(曲面小物)
の2種をワンタッチで交換できるようにし、小物製作用ヘッドはアームから
曲面部がオーバーハングするようにした。2点で固定する方が丈夫だが
保持する対象が大して大きいものではないので片側ビス留め、もう片方
は位置決めピンとすることで装着利便性に配慮した。
手前に置いてあるのは取り外したノーマルヘッド、挟んでいるのは接眼
レンズカバー習作

preciseB
180度反転させて奥にオーバーハングさせることもできるので縫いの姿勢
が比較的自由に採れる。このヘッドは壊れた食卓用いすの脚(ブナ材)

foldingA
小物用ヘッドを装着して折りたたんだ状態

foldingB
小物用ヘッドを装着して折りたたんだ状態の側面
なんとなくイノシシに見えなくもない
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